― エイブラム・ホッファー・アンドリュー・ソウル『オーソモレキュラー医学入門』を読む ―

オーソモレキュラー医学の創始者ホッファー博士とソウル博士による480ページの決定版。消化器・心血管・がん・精神疾患・関節炎まで、栄養素最適化による治療の全容を網羅する医療者必携の教科書。
エイブラム・ホッファー博士(1917–2009)は、カナダの精神科医としてナイアシン(ビタミンB3)の高用量投与による統分失調症治療を開拓した先駅者だ。本書はその集大成とも言える480ページの大著であり、消化器疾患・心血管疾患・がん・精神・行動障害・関節炎に至るまで、栄養素最適化による治療の全容を網羅する。日本語訳は中村筄史氏により2019年に論創社から出版された。
「栄養素の欠乏は単なる栄養不足ではなく、細胞の機能障害である」——ホッファー博士のこの言葉は、現代医学の病因論を根本から覆す。
著:エイブラム・ホッファー・アンドリュー・ソウル(中村筄史 訳)|出版社:論創社|2019年|ISBN: 978-4-8460-1840-5
1950年代、ホッファー博士は統分失調症患者に高用量のナイアシン(ビタミンB3)を投与し、著明な改善を得た。これは精神科学における栄養素療法の先駅となり、後にライナス・ポーリング博士もオーソモレキュラーの概念を提唱するきっかけとなった。ナイアシンはコレステロール代謝・エネルギー代謝・DNA修復に関わる個別化された機能を持ち、高用量ではコレステロール改善・抗炎症作用も発揮する1。
本書が特に重要なのは、各疾患に対する具体的な栄養素プロトコルを示している点だ。心血管疾患にはナイアシン・コエンザイムQ10・マグネシウム、がんには高用量ビタミンC・セレン・コエンザイムQ10、精神疾患にはナイアシン・ビタミンB6・フォリン酸・マグネシウムの補充が詳細に記述されている2。
本書が通常の医学書と大きく異なるのは、「個人化された栄養素評価」を強調する点だ。同じ症状でも、患者によって必要な栄養素と用量は大きく異なる。ホッファー博士は「栄養素依存性」という概念を提唱した。これは、同じ栄養素でも、ある個人には通常の100倍以上の量が必要な場合があるという考え方だ3。
診断には血液検査に加え、尿中クレアチン・有機酸・アミノ酸プロファイルなどの機能医学的検査を組み合わせる。この総合的な評価により、各患者の「生化学的個性」に合わせた栄養素プロトコルを策定する。これは現代の「精密医療」の概念と共鳴する。
ホッファー博士の「栄養素依存性」の概念は、慢性疼痛の臨床において極めて重要な示唆を与える。同じ慢性疼痛の診断でも、マグネシウム要求量が通常の5倍以上の患者が存在する可能性があり、標準的な補充量では全く効果がない場合がある。これが「サプリを飲んでも効かなかった」という経験の一因である可能性がある。
実践的には、慢性疼痛患者に対して以下のステップを推奨する。第一に血清フェリチン・25(OH)D・マグネシウム・亜鉛・ビタミンB12・フォリン酸の測定を行い、欠乏を確認する。第二に、欠乏が確認された栄養素について、エビデンスに基づいた用量で補充を開始する。第三に、2ー3ヶ月後に再検査し、目標値に達しているかを確認する。この個別化されたアプローチが、ホッファー博士の教える「栄養素依存性」の概念を実践に落とし込むことになる。
『オーソモレキュラー医学入門』は、ホッファー博士の数十年にわたる臨床経験と研究の集大成だ。現代医学が「病気の治療」に特化する中、「細胞の最適化」という視点は、予防医学・精密医療・統合医療の未来を先取りしていたと言える。Dr.Painとして、慢性疼痛患者に対する栄養素評価の重要性をこの書から学び、日常臨床に取り入れている。