― 溝口徹『最強の栄養療法「オーソモレキュラー」入門』を読む ―

日本のオーソモレキュラー第一人者・溝口徹が、がん・うつ・アレルギー・発達障害・不孕・慢性疲労などすべての不調を「栄養素の力」で根本から改善するアプローチを解説。細胞レベルでの栄養素最適化という革命的な医学の入門書。
オーソモレキュラー(Orthomolecular)とは、ノーベル賞受賞者ライナス・ポーリング博士が1968年に提唱した概念で、「体内の最適な分子環境を整えることで健康を維持・回復する」医学を指す。日本における第一人者である溝口徹先生は、新宿溝口クリニック院長として数多くの難治症例を栄養療法で改善させてきた。本書はその集大成とも言える入門書であり、「栄養素で病気を治せるのか」という疑問に、科学的な解答を示す。
「病気の原因は疬菌ではなく、細胞内の栄養素不足である」——この革命的な視点が、溝口先生の臨床を支える根幹だ。
著:溝口 徹(新宿溝口クリニック院長)|出版社:光文社新書|2019年
通常の医学が「病気を治す」ことを目的とするのに対し、オーソモレキュラーは「細胞が最適に機能するための分子環境を整える」ことを目指す。その中心は、血液検査による「実際の栄養素レベル」の把握だ。鉄・ビタミンB群・ビタミンD・亜鉛・マグネシウムなどの欠乏が、うつ・不安・慢性疲労・慢性疼痛の根本原因となっていることが多いと溝口先生は説く1。
特に注目すべきは「潜在性鉄欠乏」だ。血液検査で赤血球が正常でも、血清フェリチン値(鉄谯證)が低い場合、細胞レベルでは鉄が渋滞している。これが慢性疲労・不安・集中力低下・慢性疼痛の一因となる。フェリチン値が30ng/mL以下の場合は要注意だ2。
本書の強みは、症状別に具体的な栄養素プロトコルを示す点だ。がん治療中・治療後の患者には、高用量ビタミンC・ビタミンD・コエンザイムQ10・セレンの補充が免疫機能を支える可能性がある。うつ・不安・筌満症には、鉄・ビタミンB6・フォリン酸・マグネシウムの欠乏が神経伝達物質(セロトニン・ドーパミン)の合成を妨げる3。発達障害・自閉症スペクトラムには、鉄・亜鉛・マグネシウム・ビタミンDの欠乏が脳機能に影響することが知られている。
慢性疲労・不定感気証は、オーソモレキュラーが最も得意とする領域の一つだ。通常の血液検査で「異常なし」と言われる患者でも、フェリチン・ビタミンD・マグネシウム・コエンザイムQ10のレベルを詳細に測定すると、溝口先生の経験では多くの患者で欠乏が見つかる。
オーソモレキュラーの視点は、慢性疼痛の臨床において極めて重要な示唆を与える。慢性疼痛患者の多くは、疼痛そのものだけでなく、慢性疲労・睡眠障害・気分不良・認知機能低下を伴う。これらはすべて、栄養素欠乏が中枢神経系の機能を広範囲に影響している可能性を示唆している。
特に重要なのがマグネシウムと慢性疼痛の関係だ。マグネシウムはNMDA受容体の天然のブロッカーとして機能し、中枢感作(ウィンドアップ)を抑制する。マグネシウム欠乏状態ではこの抑制が失われ、疼痛信号が増幅される。また、ビタミンDの低下は慢性疼痛・線維筌痛症・慢性腰痛のリスク因子であり、補充により疼痛スコアが改善するRCTが存在する。慢性疼痛患者に対する初診時に、血清フェリチン・25(OH)D・マグネシウム・亜鉛の測定をルーティン化することを強く推奨する。
『最強の栄養療法「オーソモレキュラー」入門』は、溝口先生の数千例に及ぶ臨床経験から生まれた実践的入門書だ。「栄養素で病気が治るのか」という疑問に対し、答えは「細胞が必要とする分子環境を整えることで、細胞本来の治癒力が発揮される」だ。Dr.Painとして、慢性疼痛・慢性疲労・不定感気証の患者に対する栄養素評価の重要性をこの書から学んだ。